②犬の顔と人の顔 その1
- _illustrator ユーヘイ
- 2024年7月31日
- 読了時間: 2分
更新日:2024年8月3日
これも東京に住んでいた頃の話である。
当時私が住んでいた文京区本駒込のマンションは、ワンルームの部屋が達磨落としのように7つ積み重なった、所謂ワンフロア1世帯の変わったつくりをしていた。
既に猫2匹と一緒に暮らしていた私は(今では立派なシニア猫である)ペットが飼える物件を探しており、ここに行き着いたわけである。
私はマンションの3階に住んでいた。
出先からマンションへ帰ると、オートロックを開けていきなり現れる3m四方程の狭いエレベーターホールに入り、これまた小さなエレベーターで3階へ向かうというわけだ。
こんなわけで他の階の住民とはほぼ接点がなかった。
しかし、賃貸とは不思議なもので、お互いに干渉しなくても生活していく中で何となく住民の様子が分かってくる。
私はすぐに、犬を飼っている住民がいることに気がついた。
エレベーターが臭うのである。
小さい頃犬を飼っていた事もあり犬の臭いは嫌いではないが、この臭いは中々強烈なものがあった。
ある日、外出しようと3階でエレベーターを待っていると7階からエレベーターが降りてきた。エレベーターは途中で止まることなく3階へやってきて、ゴン!という年季の入った大きな音を立てて扉を開けた。
すると、狭いエレベーターの中に2人の女性とドーベルマンとシーズーが乗っているではないか。
私は少々驚いたが、悟られないように何食わぬ顔で乗り込んだ。たかが3階から1階までだが、エレベーターがわざとスピードを遅めているかと思うくらいに遠く感じのを覚えている。
というのも、私はこの最中ある事が気になって仕方がなかった。
臭いではない。
女性2人の顔である。
エレベーターに乗り込む時にチラッと見ただけだが、ドーベルマンを連れている女性はドーベルマンに、シーズーを腕に抱えている女性はシーズーにそっくりだったのだ。