①ジャッシー
- _illustrator ユーヘイ
- 2024年7月25日
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以前、東京台東区の谷中に住んでいたころのことである。
最寄りの東京メトロ千代田線千駄木駅から不忍通りを根津駅方面へ歩いてほど近く、少し入った路地にカレーを出す店があった。あれはたしかネパール料理屋だったように思う。
青色の扉を入ると、店内は狭く、ネパールを思わせる象の装飾品や雑貨が所狭しと並んでいた。当時からさらに数年前に某批評サイトで人気店の称号を得た店のはずだが、私が足を運ぶときは(結局5回ほど通った)、いつも閑古鳥が鳴いていた。
私はこの店が好きだった。
いい意味で獣臭いマトンカレーが好きだったし、なによりこの店のラッシーに私は虜になってしまったのだ。
この店のラッシーはとにかく甘かった。その後もカレー屋に行けば必ずと言っていいほどラッシーを注文しているが、この店程甘いラッシーに私は未だに出会えていない。
この店のラッシーをストローで吸うと、ジャリっとした食感を感じるのだ。
砂糖である。
何を隠そう、砂糖がヨーグルトの中で飽和状態なのである。
もうおわかりだと思うがこれが‶ジャッシー″である。
いったいどれほどの砂糖が入っていたのだろうか、考えると恐ろしくなるが、そんなことを考える余地もないほどこの甘い‶ジャッシー″に夢中になった。
さらに付け加えると、ネパール人の店主は他にお客がいないからか、私が‶ジャッシー″を少し飲むと、余ったからと‶ジャッシー″を再びなみなみに注ぎ足してくれた。
ある日、またあの‶ジャッシー″を飲もうと店に行くと、店内の灯りはなく、いつもの青い扉に閉店を告げる札がさげてあった。
私はこれから満たされるはずだったあの甘い味を口の中にほのかに感じていた。

